いい加減思い知ればいいのに 01
「あ、枝毛」
くるくると巻いた毛の先が二股に分かれていた。ハリーは一つため息をついて無感動にその毛を切った。
クィディッチやなんなりで雨ざらしになったり泥だらけになったりするのが日常茶飯事だから、髪の毛がすぐ荒れてしまう。
枝毛を見つけるたびに切っているせいで自分の髪の毛はずっと短いまんまなんだろうなとハリーは思った。
指につまんだ切れ端をフッと息で飛ばす。ぽとりとオートミールの脇に落ちた。
「ポリジュース薬じゃないわよ」
一連のハリーの行動を横で見ていたハーマイオニーはしかめっ面だった。
「ごめん」
ハリーは素直に謝って、今度こそめんどくさがらずに魔法で消した。
「髪の毛ボサボサでさ。憂鬱になっちゃう」
「わかるわ。でもトリートメントとかもめんどくさいのよね」
「そうそれ」
今日は何故かロンが一緒にいないから、二人はダラダラと喋りながら朝食を片付けた。
「ところで、ロンはなんでいないの?」
温かな食事が腹に収まり、ようやく頭が動き出したハリーが聞いた。
「フレッドとジョージと一緒にクソ爆弾にタップダンスさせてたとこ、捕まったのよ」
呆れたようにハーマイオニーが肩を竦めた。
「……それ、なにが楽しかったんだろ?」
ハリーもつられてぱたりと口を閉じた。
「わたしにわかるわけないでしょ」
もはや興味も失ったハーマイオニーはそっけなく答えると時間割を確認し出した。
「なんか、男の子って子供っぽい……」
「言うまでもなく、よ」
聞かせるつもりなく呟いたハリーの言葉に、ハーマイオニーはしっかり返事をした。
十五歳になって、ハリー達はなんとなく自分たちの性差を認識し始めた。それは、身体的な違いであったり、精神の成熟度合いであったりした。
一概に男女でこんなに違うと言い切れる程ではなかったけど、そういうのあるよね、と同性同士で納得してしまう程度には可視化されていた。
そして、今、ハリーには言いたいことがあった。だけどタイミングが難しくてなかなか言えないことだった。
むず痒いほど邪魔な感情で、ハリーはさっさとそれを片付けてしまいたかったけど、やっぱり相手がいる事なので容易にはいかない。
ハリーはずっと機会を待っていた。待ちに待っていたその機会はある風の強い日にやっと訪れた。
その日ハリーはクィディッチの練習を終えて、ユニフォーム姿で廊下を歩いていた。
風が強かったから髪はボサボサにほつれて、手櫛で梳くと砂がぱらぱら落ちた。
汗が乾いてカサつく肌が煩わしくて、ハリーはやや不機嫌だった。
そんなハリーに無謀にも声をかけるものがいた。
「おや、ポッター。その姿、ハリケーンにでも巻き込まれたかい?」
気障ったらしい笑い声に、ハリーはその人物を蔑視した。
「自分を見るのに必死過ぎて、天気も読めないの?」
いつもだったら相手にもしないのに、気分が悪かったハリーは勢いよく噛みついた。
声をかけた相手、ドラコ・マルフォイは面白そうに目を細めた。
「君に気象について教えを受けるとは思わなかったな?確か、天文学がお得意なんだっけ」
ハリーはますます眼差しを尖らせた。天文学の計算をハリーが苦手にしてることを知っていて、それをこの男は嗤っているのだ。
「本当、いい加減さ……」
腹に溜まった苛立ちを全て吐き出すように、ハリーは大きく息をついた。
「その幼稚な絡み方、辞めてくれない?」
ドラコの顔が一瞬で真っ赤に染まった。
狼狽える彼の様子にハリーは胸がすいた。出会う度、掛けられる彼の子供っぽい罵詈雑言に耐えかねていたのだ。いつか言ってやろうと思っていた全てが口先から溢れていく。
「なにがしたいのかわかんないけどさ、僕は君に構ってる暇なんてないんだ。その馬鹿みたいな暴言は言葉の練習なの?いい加減、僕が相手にしてないって気づけよ」
立板に水のごとく言い切ったハリーはハッと浅く息をついた。
ドラコは無言だった。ハリーは少し不思議に思って、階段の上に立つ彼を見やった。
真っ赤だった。さっきよりもっと割増しで赤かった。ハリーはびっくりしてしまって、一歩ドラコに近寄った。階段の真下まで来たせいで、3段ほど上に立つ彼の顔がよく見えた。
泣き出しそうだった。ハリーはいきなり気まずくなって、唇を噛んだ。まさかここまで自分の言葉がドラコを追い詰めるとは予想もしなかった。
「えーっと、マルフォイ?」
謝る気もないし、うそだったと否定してやる気も起きなかったけど、取り敢えずそのままにしておくのは忍びなくてハリーは声をかけた。
ドラコは勢いよく顔を上げ、すごい剣幕でハリーを睨んだ。
「……っ!」
ドラコは何か言おうとして、口をパクパクさせたけど、結局何も出なかった。あのドラコ・マルフォイが口を噤むなんてところに出くわしてしまって、ハリーはちょっと怖くなった。
明日天変地異が起きるかもしれない。
「お前、覚えておけよ!」
ありきたりな捨て台詞を吐いて、ドラコがバッと踵を返した。翻った彼のローブがハリーの鼻先をかすめる。
そのままいつものお行儀の良さをかなぐり捨てて、ずかずか階段を上っていくドラコをハリーは茫然と見送った。
「……もし次話しかけられた時、すごい難解な言葉使ってきたら僕わかんないかもしれないな」
これだけドラコに恥をかかせたのに、ハリーの頭にはもう二度と話しかけられなくなるという選択肢は何故か出てこなかった。
終わり
ドラコは羞恥と屈辱で茹で上がった頭抱えたまま寮に戻って、一晩じっくり復讐を考えて、眠れなくて、朝方ハッと冷静になって
何故僕はまだあの女に話しかけようとしてるんだ? って気づいて始まるラブコメ
針もなんか思い知ります。二人とも怒り狂いながらくっつく
2コメント
2021.04.11 14:02
2021.04.04 15:51