2021.03.22 13:48祈り 祈りは神に捧げるものだ。十字架の前に跪き、敬虔な首を垂れ、粛々と口にするものである。 ならば神とはなんなのか。聖陽教が蔓延するこの国の、太陽神とはなんだろうか。ラフルスに御使いを送り、天照を建設したこと以外に太陽神が人を救った記録などないではないか。 教会を併設する特殊消防隊に...
2021.02.23 02:11まいまいまいご ふとした瞬間に現実がわからなくなる。 いや、現実がよりはっきりすると言ったほうが適切だろうか。 アーサー・ボイルは夢の中を生きている。アーサーにとって世界とは不思議で満たされていて、幻獣や魔獣、悪魔や妖精の痕跡がそこかしこにあるものだった。 その不思議はアーサーの日常で、特に強...
2021.02.23 02:08思い出だけは燃えないで 炎に包まれた記憶がある。高校の時、一つ上の先輩の人体発火現象に居合わせたのだ。あれからもう十年以上経つのにいまだに私の中の炎は消えていない。 大学を卒業し、文房具屋の店員になってあくせく働いていてもふとした時に炎は燃え上がる。 私はいつも昼食を職場近くの公園で摂る。割と広い公園...
2021.02.23 02:07いつか僕は夏に出会う アーサーがそのゲームを始めると、夏が来たなと森羅は実感する。扉を開けた形のまま、森羅は少し止まっていた。 テレビの前に座り、画面を見つめるアーサーが窓の向こうの青空からくっきり浮いていて、影になっていて、薄暗く見えたからだ。 冬の朝に、霜柱を踏むような慎重さで森羅は部屋に足を踏...
2021.02.23 02:02病は気のせいです!喉が痛くて目が覚めた。朝の日差しがカーテンの隙間からこぼれ落ちている。森羅はベットの上でムクリと起き上がった、と同時に起こっためまいに頭を押さえる。喉がヒリヒリ痛くて、体がだるかった。なんだか心当たりのある症状だったが、冷たい水でも飲めばスッキリするだろうと梯子を降りた。途端、背...
2021.02.23 02:01つめたい君に送るストーブが出てくると本格的に冬が始まったと思う。隙間風の多い第八では、エアコンの温風はすぐにどこかへ抜けてしまう。その為暖房は基本、古き良きストーブだった。火力のあるストーブのおかげでいつも事務室はほかほかで、その分廊下に出た時の寒さが身に沁みた。「うー、さむ!!」一日の業務を終...
2021.02.23 02:01数多の星には祈らない 東京皇国の夜は明るい。アマテラスの潤沢なエネルギーで夜の闇は照らされ、皇国の人間は真の暗闇というものを知らなかった。 それは森羅にとっても同じだった。だから初めて中華半島に渡り、焚き火のみで夜を迎えた時、天上を覆う星の海に驚いた。 地べたにひいたシートに寝転がり、ただ真上を見て...
2021.02.04 15:49苦いも甘いも世紀末が終わった。伝道者は永遠に去った。世界を飲み込んだ大火は結果的に森羅の踵に黒炭を残しただけで消えてしまった。「大して変わりねぇな。」ある夜、世界の変革を待つ第八の屋上で森羅はぼんやり呟いた。もうすでに焔人は現れない。特殊消防隊も役目を終えた。森羅も幼い時の夢通りヒーローにな...
2021.02.04 15:43リンネ びゅうっと風が強く吹いた。店先の暖簾が翻る。浅草ではよく見かける、その原国調のカーテンを潜るたび、森羅はタイムスリップしたような気持ちになる。 今日は桜備に頼まれた書類を紺炉に届けにきていた。そのついでに紅丸に軽く稽古を見てもらった。せめてものお礼にと、使いっ走りを済ませて森羅...
2021.02.04 15:43草葉の陰で泣くものか アーサーが死んだ。何のこともない任務中の殉職だ。 誰も気づかないところでアーサーは死んでいた。 森羅も初めは信じきれなくて、何度も何度も確認した。でもやっぱり、胸に大穴開けて寝ているバカ面はアーサーで間違いなくて、やっとうずくまった。じっと自分の存在だけを感じてた。 他はみん...
2021.02.04 15:41聞かぬは人ならずゆらゆらと揺れる。炎が揺れる。まるで踊るみたいに、溶けるみたいに揺れている。鮮やかな揺れに音色すら聞こえてきそうだ。だが炎は無音である。炎に音色を感じるのはそれを見ている人間なのだ。「人間以外の動物は音楽が騒音に聞こえるんですって。」ヴァルカンさんが言ってました。とアイリスがほほ...
2021.02.04 15:40宇宙のかなたで君と死ぬ 全てが丸く収まる、なんてそう簡単にはいかない。 伝道者を下して、大災害を免れはした。だが地球が受けたダメージまで全て帳消しとはいかなかった。天照の再生力も元はと言えばアドラ由来のもので、伝道者がいなくなってしまった今ではそのエネルギーも容易く使えるものではなくなった。 資源にエ...