1-9 見ている

妖精たちはご馳走を用意してハリーの帰りを待っていた。

温かな室内の空気がハリーの冷えた顔を包む。

彼女が重そうに吊り下げているトランクをクリーチャーが受け取って、消した。

「お嬢様、寒かったのではございませんか?ベルはお風呂の用意をしておきました。先に入っていらしてください。」

ハリーの弾んだ息と真っ赤な頬、ぐしゃぐしゃになった髪の毛から、彼女が走って帰ってきたのだと察したベルがそう勧めた。

「……うん、そうする。一階のお風呂?」

「そうでござます。」

ハリーはコートと襟巻きをフックにかけて、ホーラと一緒に風呂場へ向かった。

クリーチャーがハリーのトランクの荷解きをする為に一緒に廊下に出てきた。

「僕がいない間、寂しかったでしょ。」

ハリーがクリーチャーを茶化した。悪戯っぽい笑顔をクリーチャーはまじまじと見つめて、嫌そうに首を振った。

「また騒がしくなったとお思いになりました。」

「またまたー」

クリーチャーのつれない態度をハリーは気にもせず、ツンツン妖精を突いた。

それからあっさりと興味を失い、風呂場に消えた。

クリーチャーは幼い主人の姿が風呂場に消えるのを待って、先に部屋に送ったトランクを追って二階に上がった。

久々の自宅での湯あみをハリーは満喫していた。寮生活では滅多に長風呂ができない。

イイ匂いのする湯に浸かってぼんやりと湯気が上がっていくのを目で追った。

先程盗み聞いた会話が頭の中をぐるぐると巡る。

(賢者の石、クィレル、ヴォルデモート……それだけでもまずいことを聞いてしまったのに、呪いなんて、聞きたくなかった。)

ホーラが気持ちよさそうにお湯の中を泳いでいる。普通の蛇なら火傷してしまう温度でも、ホーラは平気だった。

白くて細長い体が透き通ったライムグリーンの中を泳いでいると綺麗だ。

ハリーは自分の感情がただ浮かんでは消えていくのをじっと感じていた。

秘密にされていて、悲しかった、寂しかった。怒っていたし、納得していた。

水面をバンバン叩いて暴れ出したかったけど、指先一つ動かすのもめんどくさい。そんなややこしい感情がハリーの中で鬩ぎ合っていた。どれが一番先に出るか争って、場所を入れ替わり立ち替わり、忙しい。

(でも、呪いがあってもベルとクリーチャーは家族のままだし、バチルダは先生、ビーは友達だ。新しくハグリッドやドラコとも仲良くなれた。そんなに重く考えなくてもいいのかもしれない。)

ようやくそう考えついて、ハリーは立ち上がった。だらだら落ちる水分をふわふわのタオルに吸わせる。たくさん泳いで満足したホーラもそばのタイルの上に這い出てきた。

用意されてた室内着に着替える。懐かしい家の香りがする。

思わず、スンと袖を嗅いだ。乾燥櫛で髪を梳く。ラッパの形をしたお尻部分からポッポッと水蒸気が上っていった。

すっかり髪の毛が乾くと、ハリーはキッチンに戻った。

ベルが用意を済ませてくれていた。いつもの席に座って、フォークを持つ。

「今日の恵みに感謝します。」

と挨拶をして食べ始める。

妖精二人はハリーが食べるのに付き合って椅子に座っていた。

ハリーはもぐもぐと口を動かしながらはじめての学校生活を報告し出した。妖精達は興味深げに耳を傾けた。

「トロールが学校に侵入してね、大変だったんだ。」

トロールに足すくいをかけた瞬間は、今思い出しても肝が冷える。

ハリーは熱心にその時の様子を二人に話して聞かせた。

「何故ホグワーツにトロールがいらっしゃったのですか?」

大事なお嬢様が酷い目に遭っていたと知って、ベルは血の気が下がった。

「わかんない。」

「ホグワーツは世界一安全だとベルはお聞きになりましたが。」

ハリーに聞いたって詳しい情報はわからないだろうに、ベルは聞かずにはいられなかった。

口に運んでいたフォークを皿に置いて、ハリーが腕組みをした。

「確かにそうだよね。なんでトロールがホグワーツに入れたんだろう?」

「魔法使いがお招きしない限り、トロールではお入りになれません。」

クリーチャーも口を挟む。ハリーはますます首を傾げた。

「ウーーン、トロールが学校に来て、先生達が退治しに行って、何故かスネイプとクィレルだけは三階の廊下にいたんだよね。わざわざトロールをホグワーツに入れる……犯人が僕だったらどういう目的なんだろう。」

ハリーは完璧にカトラリーから手を離して考え込んでしまった。

だんだんと湯気が消えていく料理を見て、ベルはまずい話題を膨らませてしまったな、と思った。

ハリーは興味を持った事は徹底的に調べたいタチだ。

長い付き合いでそれを知っているのに待てなかった。

食事の後、リビングに移動した時に詳しく聞くべきであった。

だが、ハリーが考えつくのをじっと待ってはいられない。11歳の理想的な就寝時間は21時である。ベルは差し出がましくも食事の手が止まっていると指摘しなければならなかった。

「あの、お嬢様、料理をお食べになって……「わかった!!」」

食い気味に返事をされてベルは面食らった。

再びフォークを持つ了承にしてはいささか元気が良すぎる。

実際、ハリーはトロールの謎について話し出したからベルへの返事ではなかったようだ。

「あのね、トロールをおとりにして別のことをしてたんだよ、きっと入れたのはスネイプかクィレルのどっちかだ。」

「お嬢様、お食事を……」

拳を握りしめ、目をキラキラさせて、自分の推理を披露するハリーは、ベルが皿を指しているのに気づいてくれない。

「二人は賢者の石を探してたんだ!」

「それは、それは」

皿に興味を戻してもらうのを諦めて、ベルは相槌を打つ。

「料理がお冷めになりました、お嬢様。」

クリーチャーが彼女の後を引き継いで、ハリーに無理やりフォークを持たせた。

「解決なさったならお食べになられてください。」

「……はい。」

クリーチャーの厳しい視線に喜色満面だったハリーは少し萎れて、フォークを動かした。

皿に残っていたインゲンやチキンを黙々と口に運ぶ。マッシュポテトの最後の一掬いを口に入れれば空になる、というところでハリーが再び手を止めた。

「……あ、でも待って。どうしてスネイプが石を欲しがるんだろう?不死や黄金に興味があるとは思えないけど……」

「お嬢様。」

クリーチャーは正式にはハリーのしもべ妖精ではないので多少の無作法を行える。

口元寸前で止まったフォークを空いたままのそこに押し込んだ。

「むぐっ」

「質問は全てマダム・バグショットにお聞きになるのが良いとクリーチャーは思います。」

「……答えてくれるかな?」

「マダムでしたら。」

ハリーは大人しくコクリとうなづいた。

解決策が出来てとりあえず落ち着いたハリーはそれから行儀よく就寝準備に移った。

歯を磨き、髪をとかして、パジャマに着替える。ハリーの部屋はホグワーツへ発った日と何も変わらなかった。

糊のきいたシーツの隙間に潜り込む。ベルが羽根布団に替えてくれたので、布団の中は暖かだった。

熱源であるあんかをつま先で触る。カバーがふわふわで少しくすぐったい。

サイドチェストの明かりを消す。寝る準備は万端だというのに、暗闇の中でハリーは目を開いていた。

ダンブルドアのことを考えていた。

ハリーが一人ぼっちになってしまった時にそばにいてくれた優しい人。話が面白くて茶目っ気があって、ハリーの突拍子もない思い付きだって馬鹿にせずくすくす笑って聞いてくれる。

でも夕方バチルダの家で見たダンブルドアはハリーが知る彼と、ちょっと違っていた。

実験対象の監察結果を報告するみたいに物事を話すなんて知らなかった。ハリーの呪いについて話していた時だって、バチルダはうろたえていたのにダンブルドアは冷静だった。

もしかしてダンブルドアはハリーをどうでもいいと思っているのかもしれない。

そう考えついた瞬間身震いした。我ながら恐ろしい発想だ。もしそうであったら、今までハリーに向けてきた彼の態度は作られたものになる。

(作り物なんかじゃない。)

ハリーは即座に否定した。ジェームズの葬式から手をつないで一緒に帰ってくれた。あの温かさが作り物であるはずがない。

(それに、呪いがかかってるよって友達に教えるのは、結構言いにくいんじゃないかな。)

ハリーが同じ立場になったのなら、その呪いについて調べつくす。それでどうしても解く方法が見つからなかったら、教えないかもしれない。

たどり着いた結論にハリーは納得した。だんだん瞼が重くなっていく。

(そうだ、きっと僕だって秘密にする。がっかりさせるだけなんて、イヤだもの。)

(でも、盗み聞きはよくなかったな。……今度、正直に話して謝ろう。)

謝罪をすると決めた途端、急に眠気が強くなった。安心したせいだろうか。

ぽかぽかと全身が温もって、ハリーはことりと眠りに落ちた。

クリスマスイブの朝、ハリーは元気に目を覚ました。寒い冬の気温をものともせず布団をはねのけて外着に着替える。

洗面所で身づくろいを済ませてから階下に降りた。働き者の妖精たちはもうすでに目覚めていて朝の仕事をこなしていた。

「おはよう、ベル。クリーチャー。」

「おはようございます。」

「よいお眠りでしたか?」

「うん、ぐっすり!」

「それは良いことでございます。」

鍋からスープをよそいながらベルがにっこり笑った。ハリーの朝食はすでにテーブルに並べてあり、あとは熱々のスープが添えられるのを待つだけだ。

ハリーは自分の椅子に座った。クリーチャーが焼き立てのパンを皿にのせてくれた。

いただきますと挨拶をして、バター壺に手を伸ばす。トーストにたっぷりのバターと蜂蜜を付けてかぶりつけば、口の中にじゅわりと甘しょっぱい味が広がる。

ハリーはトーストを半分食べると、スープに口をつけた。トマトのベースにたっぷりの野菜と豆が入っている。時折出会うベーコンも香ばしい。

「おいしい。」

ホグワーツの食事も文句のつけようがないほどおいしいが、やはりベルの料理は別格だった。空っぽだった胃袋が大喜びしている。

「ありがとうございます。」

主人の賛辞に妖精二人が礼を述べる。目の前でこれだけおいしそうに食べてもらえると、屋敷しもべ妖精であれどうれしいものだった。

主人不在の3か月を過ごしていただけに、その喜びはひとしおだ。

もぐもぐと食事を続けながらハリーが今日の予定を話し出した。

「今日、夜にビーと先生が来るでしょ?僕その前に森に行ってクリスマスリースを作ろうと思うんだけど、ほかに何かいるものある?」

「食材はご準備なさりましたから、大丈夫でございます。」

「お嬢様はコートをたくさん着ていくべきだとクリーチャーは思います。」

「はぁい。」

森で半日を過ごすつもりだったハリーはクリーチャーの忠告に素直にうなづいた。家の裏の森は雪で真っ白に覆われている。見るからに寒そうだ。

「コートとセーターと、マフラーに手袋していくよ。」

「靴はクリーチャーが用意なさった、防水のブーツをお履きになってください。」

「ありがとう。」

窓をこつんと叩く音が聞こえた。見ればワシミミズクが手紙を咥えて窓枠にとまっている。

「あ、日刊ドラコだ!」

ハリーは喜んで窓を開けた。ワシミミズクが中に入ってきてハリーの膝にぽとんと手紙を落とした。

「ありがと、これ日刊ハリーだよ。ドラコによろしくね。」

それと交換にハリーも用意していた手紙を渡す。ワシミミズクは思慮深げに「ほー」と鳴き、それを咥えた。

そのままぴょんぴょん窓枠に飛び移ると、あっという間に飛んで行った。

律儀に毎日届いているドラコの手紙を開く。

ハリーが住んでいるところとドラコの屋敷は実はあまり遠くなかった。

きっとハリーが手紙を読み終わる頃にはドラコも手紙を受け取っているだろう。

やあ、ハリー。 

元気かい?って毎日聞いているから元気なのは知っている。

そろそろネタが尽きてきた。

昨日初めて屋敷しもべ妖精に話しかけてみたら、持っていたお盆を落として後ろに三回転しながら飛んで行った。

ちょっと面白かったよ。今日また同じ妖精に話しかけてみようと思う。

というか僕の家のしもべ妖精の衣装が汚いことに気付いた。

あんな汚れた枕カバーで世話されるのはごめんだ。

ちょうどインクを付けてしまったクッションカバーがあるからそれに着替えさせる。

ハッピークリスマスイブ

ドラコ

「屋敷しもべ妖精が汚い!?」

ありえない!とハリーは手紙を読み終わって叫んだ。

ベルとクリーチャーがびっくりしてハリーを見た。

二人は小奇麗な格好をしていた。ベルはカフェカーテンを胸元で止めているし、クリーチャーはストライプの枕カバーを着ている。

「しもべ妖精が汚いってあり得ないよ!僕らのために掃除洗濯全部してくれてるんだから、自分たちのだって洗う暇はあるはずだもん。」

信じられないとばかりに目を見開くハリーに、妖精たちは顔を見合わせた。

「その暇がない家や、着るものが一つしかない妖精もいるのでございます。」

「ベルたちは幸せものなのでございます。」

カルチャーショックを受けているハリーに二人は優しく言い聞かせた。

「え、そうなの……?そうなんだ……」

本人たちからの情報に、ハリーは納得せざるをえなかった。

ハリーは世話をしてくれている二人しか知らない。いろんな屋敷しもべ妖精がいるのだな、と思った。

朝食後、ハリーは予定通り森に草木を取りに行った。午後には材料がたくさん集まり、ほくほく顔で家に帰った。

ベル特製の昼食を食べ、クリスマスリースを二個作り終わった。ちょっと作成に手間取ってしまったので、顔を上げたら外はもう暗くなりかけていた。

バチルダとダンブルドアが来る前に何とかリースを玄関に飾れて一安心する。

招待した通りの時間に、二人はそろってやってきた。

「こんばんは、先生、ビー」

「こんばんは、ハリー。お招きありがとう。」

「ハイこんばんは。このリース、素敵ね。」

出迎えた二人からクリーチャーがコートを受け取り、コート掛けに吊るした。ハリーは二人をダイニングへエスコートした。

蝋燭をいたるところに飾り、ヒイラギも付けたのでダイニングルームはそこはかとなくクリスマスっぽくなっていた。

大きな丸テーブルには大皿の料理が並び、ホカホカと湯気を立てている。クリスマスプティングにチキン、シチューにポテト、サラダまで。ベルが腕によりをかけた逸品だ。

ハリーは二人のために椅子を引き、ナプキンを手渡した。それから自分も席についた。クリスマスイブの楽しい食事が始まった。

「明日はセブルスと一緒にリリーのところへ行くんじゃったのう。」

食事を一通り腹におさめた後、ダンブルドアが思い出したように言った。

「うん、その予定だよ。見て、ビー。母さんに渡すようにリースをもう一個作ったんだ。」

ハリーが差し出したリリーの為のリースをダンブルドアが興味深げに見ている。

「このいい匂いのする草はクリスマスリースには見慣れぬが、どうしてこれを?」

編み込まれた木の枝からぴょんぴょん飛び出している不格好な草を指してハリーに問いかけた。

「幸運をもたらす薬草なんだって。」

良かれと思って付け加えたけど、本当はまずかったのかな、とハリーは内心ひやひやしながら答えた。

「ほう。」

「ヨモギでしょ、スイートグラスにジュニパーにモミ。全部母さんの日記に書いてあったんだ。」

「きっとマグルの方の伝承ね。」

バチルダがダンブルドアの手元を覗き込む。彼女が言うのならそうなんだろう。ハリーはまじめな顔で頷いた。

(詳しく知らないから聞かれたくないな。)

と思っていた。

「きっとリリーもよろこぶじゃろう。」

「そうだといいな。」

返してもらったリースをハリーは注意深く紙袋に入れて、ベルに渡した。

食事を終えて、居間に移動しながら、ハリーはいつ謝罪を切り出そうか悩んでいた。

盗み聞きしていたと白状しなければならない。だけど軽蔑されたらと思ってしまって中々勇気が出ない。

話し出すきっかけのないまま、ベルがお茶を持ってきた。

三人で暖炉の前に座って、紅茶を片手におしゃべりする。それは素晴らしい時間のはずなのに、気にかかっていることがあって楽しみ切れない。

とうとう、ハリーの口数が少ないことにダンブルドアが気が付いた。

「どうした、ハリー。いつものおしゃべりな君らしくもない。おなかがいっぱい過ぎて眠くなったかのう?」

「ううん、違うの。」

ハリーは慌てて首を振った。

いまだ、と思った。言うのなら今しかなかった。ハリーは二、三度唾をのむと、覚悟を決めて口を開いた。

「あのね、僕、休暇の最初の日に、二人が話してることを聞いてしまったの。」

「なんじゃと?」

「え?」

「ごめんなさい!賢者の石とか、呪いとかの話を、聞いてしまいました!」

困惑する二人にハリーは勢いよく頭を下げた。許してくれるだろうか。怖くて目をぎゅっとつぶった。

ハリーにとっては長い沈黙の後、ようやくバチルダが口を開いた。

「知ってしまったなら仕方ありません。それで、あなたはちゃんとした知識が欲しいと思っているのかしら?」

まさかの発言にハリーはがばっと顔を上げた。

「教えてくれるの?」

「バチルダ。」

ダンブルドアが諫めるように彼女の名前を呼んだが、バチルダは意に介さなかった。

「ええ、私は教えます。知を求めるものに無知を押し付ける教師がいますか。」

きっぱりとそう宣言した。それはハリーにではなく、困ったように首をかしげているダンブルドアに向かって言っていた。

「じゃが、それはこの子には荷が重い。」

「ですが本人です。自分のことなのに何も知らない愚か者を私は生徒に持ちたくありません。」

頑なな彼女の態度はどれだけ言葉を重ねても変わる気配がなさそうだ。

「……呪いの話だけならば、構わない。」

ダンブルドアはため息をついた。そもそもバチルダを止められるとは思っていなかった。

「しかし、すまなんだ、ハリー。賢者の石の方はホグワーツのトップシークレットでな。君と言えど教えるわけにはいかぬ。」

ハリーはその言葉にうなづいた。そっちの話は気になるけど、どうしても知りたいわけではなかった。それに、自分で調べられると思っていた。

バチルダはソファから立ち上がると、ハリーの足元に膝をついて彼女の手を握った。

「これは、あなたにはつらい話でしょう。だけど受け止めきれると信じています。」

暖炉の明かりに揺らめくバチルダの目は真剣だった。ハリーも息を詰めた。

「あなたには呪いがかかっています。誰がかけたのかわかりません。解く方法もありません。どんな呪いかも不明瞭です。どうやら血の呪いに似ているようですが若干違います。ここまで良いですか?」

「ハイ。」

「あなたは存在感が薄いと悩んでいました。その答えが呪いです。あなたに友人を作らせまいとしている。人との絆を繋がせまいとしているあさましい呪いです。」

「……ハイ。」

ハリーの喉が石ころを飲み込んだようにぐっと詰まった。

「だけど、あなたには友人が出来ましたね?私もアルバスもあなたを大切に思っています。あなたがそのまま一生懸命正しくあれば、呪いに抗うことができます。」

泣き出しそうな顔をしたハリーをバチルダはその枯れ木のごとき腕で抱きしめた。

目じりににじんだ涙をハリーは瞬きではじいて乾かした。ダンブルドアは師弟の抱擁を、傷ついたような、愛しいような目で見ていた。

「大丈夫よ、ハリー。私たちはあなたが大好きですから。」

そっと耳元でやさしく囁かれた。

「僕も、大好きだよ。」

ハリーもバチルダの腕に強く抱き着いて、同じ言葉を返した。

暖炉の炎が明るくぱちぱちと爆ぜた。暖かなぬくもりが一層強くなった気がした。

冬は愛のぬくもりで溶けるものだった。


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