1-14 この日は戻らない

ドラコが急に冷たくなった。罰則明けの会合以来、ハリーは昼休みに図書館へ行けなくなった。

本当に嫌われてしまったと知るのが怖かったからだ。

呪いがかかってるなんて気にしない、そう言うのは簡単だ。バチルダやしもべ妖精の前ではハリーはまさしくそう振舞っていた。

だけど心の奥底では信じられていなかった。ケンタウロスのこともあった。呪いがハリーに及ぼす悪影響をまったく気にしないなんて到底無理だった。

ドラコも呪われている友人なんて欲しくないかもしれない。本人からそれを言われてしまったらと思うともうハリーの足は動かなくなる。

そっけなく返された忍びの地図と透明マントは元あった場所にしまった。

今、ハリーの心を支えているのは忍びの地図でクィレルを見張るという使命感だけだった。

もうグリフィンドールでハリーに話しかけてくる人間はいない。150点もの減点でみんなハリーたち三人に怒っていたからだ。

「あれ?」

その夜もハリーはいつもと同じように忍びの地図を見ていた。クィレルの足跡を追っていた。

クィレルが自室から出たので、てっきりまた禁じられた森に行くのだと思って見ていた。

だけど今日はクィレルの足跡は城の中から出なかった。

真っ直ぐに三階の廊下に向かっている。

「……まさか、賢者の石を?」

ハリーは早鐘を打つ鼓動をどうにか抑えようとしながら呟いた。

どうしよう。一瞬ハリーは迷った。先生に報告するか、誰かに話すか、そんなありきたりの発想しか思いつかなかった。

でもそれらすべて、今のハリーにはできない選択だった。

誰も信頼できる人がいない。信用してもらえるはずがない。ふっと思い浮かんだドラコの顔も霞に消えた。

ハリーはクィレルを無視するか、一人で止めに行くか、どちらかしか選べなかった。

ぐっと強く目を閉じて、ハリーはそっとベットから降りた。

音を立てないようにしながら大急ぎで服を着替え、スニーカーのひもを引き絞る。

杖をポケットに突っ込み、透明マントと忍びの地図を持った。

ベットサイドで眠っていたホーラがするするととぐろを解き、頭を上げた。

そのままハリーの足元に寄ってきたホーラを手で押しとどめる。

「ホーラ、僕これから危険なところに行くんだ。それでもついて来てくれる?」

いつでもそばにいてくれたハリーの相棒だ。だけどちゃんと聞いておきたかった。

もちろん、とでもいうようにホーラはハリーの腕を伝って首に巻き付いた。

「ありがとう、心強いよ。」

透明マントをかぶって、杖を持つ。

ハリーはホーラと一緒に真夜中の学校へ降りて行った。

抜け道を使い、たどり着いた三階の廊下は真っ暗だった。

埃を踏むたびしゃりしゃりと音がする。少し先にルーモスで灯した明かりが見えた。

目を凝らす。フラッフィーの守る扉の前にもうクィレルはたどり着いていた。

ハリーはホーラをそっと床に下した。

「ホーラお願い、誰か呼んできて、誰か、僕のことを信じてくれる人を。」

ホーラは心得たようにすぐさま暗がりに消えた。

ハリーは透明マントを脱ぎ、石像の影に置くと、クィレルの背中に向かって駆け出した。

足音なんか気にするものか。あいつを止めなくてはきっとまた悲しい思いをする人が増える。

それに、ヴォルデモートが狙っているのはダンブルドアが友人から預かったもの。

ビーの大事なものだった。

走るうちに恐怖が解けていく。杖をぎゅっと握りしめる。指先が熱かった。

「ペトリフィカス・トルタス!」

ハリーに出来る、精一杯の呪文だった。だが呪文はあっさり弾かれた。

背後からの奇襲も予測済みだったかのようにクィレルはゆっくりと振り返った。

「ミス・ポッター、何故ここに?生徒は就寝の時間だが。」

「あなたを止めに。」

不気味にほほ笑むクィレルを真正面から見据えてハリーは言った。

声はみじんも震えない。何も恐れない。ハリーは自分でここに来た。

「おやおや1年生に止められるほど、私は耄碌して見えたかな?」

狂ったようにクィレルが笑った。ハリーは喉の奥が引き攣れる感じがした。

突きつけられる杖先から目が離せない。ハリーには魔法を防ぐ術はない。呪いも、呪文も子供騙しみたいなものしか知らない。でもハリーは知っていた。

立ち向かわなければ望むものが得られないということを。もしこの場にドラコがいたのなら今すぐハリーを引っ張って脱兎のごとく駆け出した。

大人の魔法使いに単身立ち向かうなんて自殺行為だ。ハリーにはクィレルを止められない。本当にただの捨て身の特攻だった。

じっと自分を見つめるハリーにクィレルは笑いを引っ込めた。苛立たし気に杖を扱く。

「君に時間を使っている暇はない。ダンブルドアがいない今夜が狙い目なのだ。悪いが死んでもらおう。」

ひゅっと杖が空を切った。緑の閃光が飛ぶ。ハリーは横っ飛びに避けた。

固い床をごろごろ転がる。埃が巻き上がって視界が煙った。ふっと腹から息が漏れた。

産毛が逆立つ感覚にハリーは反射的にまた背後に転がった。今までいた場所が焦げる。

「ちょこまかと、うっとうしい。」

クィレルはもう本気でハリーを殺しにかかった。初めの閃光を何とか避けたハリーに金縛りをかける。

「…あっ」

喘ぎを一つ零して、ハリーは床にばったりと倒れた。

「無駄な時間だ、非常に無駄だった。祈る間ももったいない。」

かつん、かつん、とカウントダウンのようにクィレルの足音が近づいてくる。

ハリーは眼球すら動かせない恐怖の中、彼の靴が向かってくるのを凝視していた。

心臓はもはや胸を突き破りそうに荒ぶり、口の中が渇いていく。死ぬのだ。ハリーは今殺される。

真っ白な脳内にジェームズの顔が浮かんだ。炭のようになって死んだ父。身体から体温が消えていく感覚、最後の一息が抜ける瞬間、ズシリと重みを受け止めたベットの軋み、そんなものが鮮明によみがえった。

「……アバダケダブラ!」

覚悟を決める時間もなかった。クィレルが放った緑の閃光がハリーの胸を貫いた。

ハリーの細い肢体が一度大きく痙攣し、力が抜けた。

「まったく、手間だった。」

杖を懐にしまったクィレルはハリーを一瞥もすることなく、フラッフィーの待つ部屋へ入って行った。

ハリーがクィレルと対面する少し前、スリザリンの寮でドラコ・マルフォイは再び迷い指針に釘付けになっていた。

しばらくの間疎遠になっている友人が対を持つその魔法道具がけたたましく警報を鳴らしている。

迷い指針を枕の上において、自分はベットの足元まであとずさり、ドラコは硬直していた。

はっはっと浅く息をしながら、天蓋の中を満たす騒音に耳をふさぎもせず、頭だけはフルスロットルで回っている。

「また?またなのか?」

先日の禁じられた森での出来事をドラコは忘れていなかった。警報が鳴った時、ハリーは恐ろしい化け物に襲われていたのだという。死ぬところだとさえ言っていた。

誤作動だと自分をだますこともできない。毛布から抜け出た体を外気がどんどん冷やしていく。

行くべきか、行かざるべきか。究極の選択だった。前回と違ってハリーがどんな危険に陥っているのか全く予想が出来ない。迷い指針の針に行き先が浮き上がっているだろうが、覚悟が決まらないドラコはそれを見るのも不可能だった。

片膝を立て、ぎゅっと縋り付く。脳裏にハリーの死体が浮かんでは消えていく。ホグワーツ特急で出会ったドラコの初めての友達は、一言でいえば型破りな少女だった。

思い込みやすくて、お節介で、悪戯好きの明るい笑顔の女の子だ。親のつけた友人しかいなかったドラコにとってハリーと過ごした時間は新鮮そのもので、楽しかった。

その彼女が今、危険にさらされている。きっと誰も知らない。ハリーは透明マントを持っているから気づかれずに出かけるなんて容易だし、」ドラコのほかに特別親しい友人もいないだろう。

ドラコが探しに行かなければハリーは、本当に死んでしまう気がした。

ぐったりと力を失い、青ざめた彼女の顔が克明に思い浮かんで、矢も楯もたまらずドラコは迷い指針に縋り付いた。

震える手を叱咤して針を覗き込む。

そこには、

「三階の廊下」

と刻まれていた。

ドラコは瞬時に理解した。ハリーがクィレルをずっと監視していること、ヴォルデモートが賢者の石を狙っているという話、全部全部本人から聞いて知っていた。

ハリーはクィレルを止めに行ったのだ。たった一人で。

迷い指針を力強く握りしめる。針が手のひらに刺さった。行くしかない。痛みが選択を後押しした。

ドラコは全身の震えを抑えられないまま、そろそろとベッドから降りて靴を履いた。警報が鳴りやまない迷い指針は枕の下に押し込んだ。

もたつきながらひもを結び、合わない歯の根をかみしめて寮から出る。真夜中に一人きりで飛び出た学校はやけに静まっていて不気味だった。

どうか見つかりませんように、と祈りながらハリーと見つけた抜け道を通り、東塔へ進んでいく。

天の思し召しかドラコはフィルチにもピーブズにもぶつからず、三階の廊下までたどり着いた。

螺旋階段から扉の前に移る。真っ黒なそれはひどく重そうに見えた。

必要以上に強く力を入れて押した。意識しないと手が震えて使い物にならなかった。

やっと足を動かして廊下に入る。不気味な石像が置かれている。使い古してボロボロのカーテンが並ぶ窓に下がっている。

月明かりさえ差し込まない夜だった。

息が止まりそうな緊張の中、ドラコは視線だけ動かして四方を探った。

その瞬間、視界の端が明るく光った。重いずた袋を床に落としたようなどさっという音がした。

息を殺して壁に張り付く。横目で音のした方を見た。

扉を背に立つクィレルと、その足元に横たわる小さな影。ハリーだ。

行かなければ、ドラコは必死で足を動かした。夢の中を歩くみたいに足がうまく動かない。つま先が空を掻くようで前に進まない。

クィレルが再び杖を振り上げた。彼は命を刈り取ろうとしていた。

ドラコは間に合わない。絶対に間に合わない。手だけ往生際悪く伸ばした。

バン!

空気をつんざく音がして、ハリーに緑の光が放たれた。

命が消えていくところをドラコは見た。こわばったハリーの体から力が抜けた。ゆっくりと手が床に投げ出される。

生命力に満ち溢れたハリーの体から、何かが去って行った。クィレルはすぐさま扉の向こうに消えていった。

彼の姿が消えた途端、ドラコの金縛りが解けた。口から音のようなものを垂れ流しながらハリーに駆け寄る。

転ぶように跪き、ハリーの胸に耳を当てた。何の音もしなかった。

「うそだ、うそだろ、ハリー、ハリー!!」

ぐしゃぐしゃとローブを手繰り寄せてハリーを膝に抱え込む。小さいハリーの体は子供のドラコでもすっぽり抱え込めた。

重い。ゴムでも詰まってるみたいに重かった。ぐにゃりとハリーの腕がゆがむ。

死んでいた。ハリーは死んでいた。ケンタウロスの予言通り、死んだ。

ドラコは目を見開き虚空を眺めた。床に降り積もった埃がわずかな明かりを反射して輝いた。

知っていたのに。危険を知らせる警報も早くから鳴っていた。死ぬと予言されたのも知っていたのに。自分の臆病のせいでドラコは友人を永遠に失った。

もはや涙すら出なかった。まだ温かいハリーを胸に抱え、ドラコはそこに座り込んでいた。

何をしても無駄な気がした。クィレルも放っておけばいいと思った。賢者の石を使ってヴォルデモートが復活しようとドラコにとってはどうでもよかった。

その時、後ろからバタバタと足音が聞こえてきた。ハリーのペットの蛇が足音より一足早くドラコの元へたどり着いた。

鎌首をもたげチロチロと舌を出し入れしている。主人の様子が分かっているのか、心配しているような雰囲気だった。

自分以外の生き物の登場に、ようやくドラコの時間が動き出した。

「ハリー?!」

足音の主がこちらを見つけたらしい。ネビル・ロングボトムが悲鳴を上げながら近寄ってきた。その後にハーマイオニーとロンが続く。

「ハリー、どうしたの?スネイプにやられたの??」

間抜けなネビルはまだハリーが生きていると思っているらしい。

「早く医務室へ連れていきましょう!」

「スネイプは?!」

ロンとハーマイオニーも駆け寄った。

覗き込んでくる彼らの視線から隠すようにドラコはますます強くハリーの亡骸を抱きしめた。

「マルフォイ、早く医務室へ……」

「触るな!」

ハリーの髪に触れようとしたネビルの手を払いのける。

「触るな?今そんなことを言ってる場合じゃない。ハリーがどうなってもいいの?」

いつもの弱腰が嘘のようにネビルはドラコの目を見つめ、はっきりと言った。

ドラコは反論も出来ずその強い視線を受け止めた。何もわからない癖に!と叫びたくなった。

だがハリーが死んでいると言葉にするのもつらくて、ドラコは顔を伏せた。

ふいに、腕の中の重さが軽くなった。驚いてハリーを見る。彼女のまつげが震えた。

ゆっくり瞼が押し上げられ、緑の瞳が現れた。それはゆっくりドラコを見、ネビルを見た。

「……クィレルを、止めて……」

吐息のような声でそう囁くと、ハリーはまた力尽き、目を閉じた。

目の前で起こった事実が、ドラコは信じられなかった。半開きになった口から息が漏れる。

そっと再び胸に耳を寄せた。とくとくとやわらかい鼓動が聞こえた。

「わかった。」

ネビルがすくっと立ち上がる。

「行こう、ロン。ハーマイオニー。」

「ええ。」

「おう。」

放心しているドラコを置いて三人は駆け出した。ドラコは息を吹き返したハリーを抱えたままそこに座っていた。

ぬくもりが戻ってきている。

——冥府の王に愛された娘よ、お前はこれから三度死ぬだろう。

ケンタウロスの言葉が脳内で反響する。

三度死ぬ、つまりハリーはその回数分生き返る。そういうことなのか。

「……ありえない。」

思わず声が漏れた。人が死んで生き返る。それがまかり通るのなら、人々は賢者の石など作らない、ユニコーンの血に触れない。

死という理は覆されないもののはずだ。恐ろしい。ドラコは身震いした。ハリーの言った呪いが、どれほど強力に彼女を縛っているか垣間見た気がした。

ハリーはぐっすりと眠り込んでいた。きっと自分が死んで、生き返ったなんてわかっていない。執拗く何かが自分を縛っていることなぞしらないのだ。

ただ一人それに気づいてしまったドラコは、一番大事な女の子を腕に抱え、大きく深呼吸をした。

秘密として胸にしまい込む。誰も気づかなくていい。そう思った。

意識のないハリーを何とか抱え、ドラコはよたよたと医務室に向かって歩き出した。

ぴちちちと鳥のさえずる声でハリーは目を覚ました。

燦燦と降り注ぐ朝日が、ハリーを真っ白に照らしていた。

「ここは……?僕、いったい?」

クィレルに呪いをかけられた以降の記憶がなかった。なぜ医務室のベットで寝ているのだろう。

ハリーは首をひねった。

その時、意識の外から、穏やかな声がかけられた。

「起きたかね?」

「あ、びー……ダンブルドア先生。」

弾かれたように首を回すと、ベットの脇に腰掛けるダンブルドアを見つけた。

「ハリー、具合はどうかな?」

「どこも変なところはないです。」

その言葉の通りハリーは元気だった。呪いをかけられたと思えないほど快調だった。

「昨夜のことは覚えているかね?」

ダンブルドアの明るいビーズのような目に見つめられて、ハリーはどぎまぎした。

穏やかな様子だが、どこか怖かった。

「……ハイ、僕クィレルを止めようとして、」

「ああ、知っておる。」

いつもなら絶対しないのに、ダンブルドアがハリーの言葉を遮った。

びくりと身をすくめる。

「なぜそんな無謀なことを?先生や友人……わしに知らせることもできたじゃろう?」

静かな声だが、ダンブルドアは怒っていた。ハリーは唇を噛み、視線を逸らす。

ダンブルドアに知らせるなんて、思いつかなかった。学校での彼はゴドリックの谷で会う彼とはちがうのだと感じていたからだ。

「急がなきゃって、思って。」

「……君とヴォルデモートには何の因縁もないはず。無茶をする必要はなかったのではないかね?」

「だって、賢者の石は、ビーの大事なものでしょう?だから僕、守らなきゃって思って……」

自分が仕出かした無茶をわかっているハリーは、罪悪感につぶされそうになっていた。

いろんな人を巻き込んで心配させたのだろう。結局、ハリーはクィレルを止められなかったのに。

「老いぼれのことなど気にせんでいいのじゃ、ハリー。」

毛布を握り込んだハリーの手をダンブルドアがポンポンと叩いた。ハリーは弾かれたように顔を上げた。

「気にするよ!ビーは僕の友達だ!友達の心は守ってあげるものなんだって、父さんが言ってた。」

ダンブルドアが最強の魔法使いであることをハリーはもちろん知っていた。だけどそれゆえに守らない、なんて選択はできない。

いくら強くたって、賢くたって、友達は心配して思いやってあげるものだと知っていたから。

だからクィレルを取り逃してしまった事実を思い出して、落ち込んだ。

「……ごめんね、ビー。僕、守れなかった。」

賢者の石は持っていかれてしまったのだろうか。ハリーはそれすら知らなかった。

「ハリー、ハリー。君はわしの友人じゃ。だからわしも君に傷ついてほしくない。」

「でも、」

「ハリー。君は生きるのじゃ。わしは君が幸せに生きていくことを願っておる。だから約束しておくれ、もう二度と命を粗末にしないと。」

深いしわの刻まれた顔に覗き込まれて、ハリーはうなづいた。そうすることがダンブルドアを一番幸せにするのだと思った。

「わかった、もう無茶はしない。」

「ありがとう。」

ゆっくりとほほ笑んだダンブルドアはひどく疲れて見えた。彼はそっとハリーを撫でると立ち上がった。

「君の友人が賢者の石を守ってくれた。今彼らは寝ているが、じき回復するじゃろう。安心しておくれ。」

友人とはだれのことかわからずハリーは無言で頷いた。疲弊しているダンブルドアを引き留めてさらに聞くなどできなかった。

クィレルがどうなったのか、誰が守ってくれたのか、聞きたいことは全部胸の中にしまった。

「さあもう一度お眠り、ハリー。君には休息が必要だ。」

ダンブルドアの細長い手がハリーの目元を覆う。一瞬満天の星空が見えた。ハリーはすとんと眠りに落ちた。

学期末、グリフィンドールの席についてハリーはごちそうを待っていた。

大広間には緑の旗がはためいている。寮杯はスリザリンが獲得したのだ。自分の寮が負けたのは悔しいが、ドラコがうれしそうなのでハリーはよかったなと思っていた。

ドラコとは、彼がハリーのお見舞いに来た際に仲直りした。クィレルに呪いをかけられて倒れていたハリーを運んでくれたのはドラコだったらしい。元通り仲良くできて、ハリーは嬉しかった。

それから、職員席に近いところにすわっているネビルたちを見る。クィレルを止めてくれたのは彼らだった。三階の廊下での大冒険は事細かに全校生徒に伝わっていたのでハリーはネビルたちがどういう風にしてクィレルと戦ったのか知っていた。

途中で負けてしまったハリーは勇気と強さを持ち、悪をくじいた彼らを眩しく思っていた。

ハリーが一人クィレルに立ち向かったことを他の生徒は誰も知らない。怖くて死ぬ思いをしたが全部ハリーしか知らない。

でもそれでいい。ヒーローはネビル。ハリーはわき役だ。

ちょっとセンチメンタルな気分になりながらダンブルドアが話しているのをぼーっと聞いていた。

うららかな陽気に、意識が溶かされて言葉が右から左へ抜けていく。若干眠い。

わぁ!!

グリフィンドール生が急に立ち上がった。

ハリーはうつらうつらしていたせいで唐突に沸き起こった歓声から完璧に取り残された。

声を張り上げ、喜んでいる彼らの言葉を聞く限り、ネビルたち三人に加点されてスリザリンと同点になったらしい。

「それでは飾り付けを少し変えようぞ。」

ダンブルドアが手を一つ打つと、金色の風が巻き起こって旗を緑と赤の二色に変えた。

「さて今回は世にも珍しい同率一位じゃ!おめでとう、諸君!」

わっとまた大きな歓声が起こった。皆が帽子を放り投げている。ハリーもドラコと二人一緒に優勝だと理解して、飛び切り嬉しくなった。

後ろを振り返り友人ににっこり笑いかける。片頬を上げた笑みが返ってくる。

所々で文句を言っている人もいたが、優勝という響きは生徒たちには甘美だったようで、あっという間に大広間はお祭り騒ぎになった。

それに加わりながら、全寮入り乱れの中ハリーはドラコに近寄りハイタッチした。

「僕ら頑張ったじゃないか!」

「君は主に減点の方でだろ。」

「終わり良ければすべて良し!」

幸せだった。自分が生き返ったことも知らず、強い呪いがかけられているのにもまだ気づかず、友人と笑えて幸せだった。

その日は飛び切り陽射しのの明るい日であった。

1年生終わりです。あとでまた直します。

書きダメに入ります、次の更新は新年を目指します。

ありがとうございました。

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